迎え角からスキーを解く

 
 縦の迎え角と縦のスピードコントロール

           
文章 佐藤潔


1)迎角の重要性

スキーにおいて、「迎え角」は非常に重要な概念です。

迎え角とは、進行方向に対してスキーがどれだけ傾いているかを表す角度を指します。スキーでの迎え角は、斜面を真上から見たときに、重心の進行方向に対して斜めの向きから受ける力の角度として定義されます。

この迎え角により、スキーヤーには斜め方向からの力が働きます。その結果、横へ押される力と後ろへ押される力が生じ、横への移動(ターン)や減速する動きが発生するのです。言い換えれば、ターンを継続的に行うためには、迎え角を作り続ける必要があるということになります。

近年、カービングスキーの普及によってターンが簡単になったと言われています。また、逆ひねりの重要性も指摘されています。これらの背景には、迎え角を作り続ける必要性があるからなのです。

さらに、スピードの減速も、この迎え角の概念で説明できます。スキーヤーは、迎え角を作ることで雪を除雪する(ずらす)ことができ、それによって減速を実現しているのです。

このように、迎え角はスキーにおける基本的かつ重要な概念であり、ターンやスピードコントロールを理解する上で欠かせない知識だと言えるでしょう。


2)縦の迎え角とその特徴

スキーにおける迎え角は、通常、斜面を真上から見たときに認識されるものですが、「縦の迎え角」という概念も存在します。縦の迎え角とは、斜面を横から見たときに生じる迎え角のことを指します。

フラットなバーンを滑走する場合、重心の進行方向と斜面の方向は基本的に平行になります。そのため、通常の滑走では縦の迎え角は存在しません。しかし、コブ斜面のように斜面縦向きに凹凸がある場合には、縦の迎え角が生じます。

コブの凹みから反力を受ける際、スキー板と重心の進行方向とで迎え角が生まれていることがわかります。

興味深いことに、平面上の通常のターンとコブを縦に滑っている時を比較すると、縦の動作においても同じようなタイミングで減速する力を受けてスピードコントロールしていることが観察されます。

このような特性からコブの中での滑走は「縦のターン」と呼ばれることがあります。

縦のターンでは、縦の迎え角を利用してスピードコントロールを行っているのです。

縦の迎え角はコブ斜面特有の現象ですが、スキーヤーにとって重要な概念です。斜面の凹凸を読み取り、適切な縦の迎え角を作ることができれば、より効果的なスピードコントロールが可能になるでしょう。



3)現代のコブ斜面の滑走技術

現代のコブ斜面の滑走技術は、過去の基礎スキーのコブの滑り方とは大きく異なっています。特に、モーグルの滑り方では、縦方向の減速要素を使う割合が非常に大きいことが特徴となっています。しかし、現在の基礎スキーのコブの滑り方は、モーグルの滑りにかなり近づいており、両者の違いはほとんどなくなってきています。

現在のコブの滑り方の基本となっているのは、「ポーパスターン」と呼ばれる滑走技術です(図:ポーパスターンのライン)。ポーパスターンとは、コブの一番高低差のあるラインを通って、コブの底にスキーのトップを突き刺していくような滑り方を指します。

この滑走法では、コブの波を上下に縫うような動きになることから、「ポーパス(イルカ)」という名称が付けられています。

ポーパスターンは速度だけでなくターンの質も高く評価される技術です。一方「ヒールキック」と呼ばれるコブをかかとで叩くような滑り方は、ターンの質が低く評価されます。一見ポーパスターンとヒールキックは真逆の評価を受けているように思えますが、実はこの2つの滑り方には表裏一体の関係があると考えられています。

ヒールキックでは、スキーのテールで叩くことで減速要素を得ているのに対し、ポーパスターンではスキーのトップで押すことで減速要素を得ています。つまり、どちらの滑り方も縦の迎え角を作ることで縦のスピードコントロールを利用しているのですが、トップで迎え角を作るかテールで迎え角を作るかという点で違いがあるのです。

このように、現代のコブ斜面の滑走技術は、縦方向の減速要素の活用に重点が置かれており、ポーパスターンとヒールキックという一見対照的な滑り方も、実は共通の原理に基づいていることがわかります。

4)モーグルにおける縦のスピードコントロール

モーグル競技では、縦方向のスピードコントロールが重要な役割を果たしています。その理由は、コブの形状的な構造に起因しています。

コブはスキーヤーが滑走した跡がバンク状に掘れて形成されます。そのため、横方向のターンを行う際、バンクをフラットに滑る割合が増えていきます。その結果、除雪による減速を得ることが難しくなるのです。

一方、縦方向に関しては、コブが掘れてくるほど迎え角を作りやすくなります。これにより、大きな減速要素を生み出すことができるのです。このような理由から、モーグルの滑走では縦のスピードコントロールが重視されるのです。

ポーパスターンにおいて、高低差のあるラインを通るのも、縦方向の減速要素を活用するためです。深いコブを縦に滑ることで、大きな迎え角を作り出し、効果的なスピードコントロールを実現しているのです。

さらに、低速でコブを滑走しようとする際、伸身抜重で滑ることで速度を抑えるテクニックがあります。これも縦の迎え角を大きくすることで説明できます。伸身抜重によって重心を前方に移動させ、スキーのテールに荷重をかけることで、縦の迎え角を大きくし、減速効果を高めているのです。

以上のように、モーグルの滑り方では、コブの形状的特性を理解し、縦方向の減速要素を最大限に活用することが求められます。横のターンによる減速が難しい状況下で、いかに縦の迎え角を作り出すかが、モーグルにおけるスピードコントロールの鍵となるのです。

5)迎え角を大きくすることで減速を作る意識の重要性

モーグルの滑走において、吸収伸展動作は縦の迎え角を大きくするための重要な動作と考えるべきです。しかし、コブ初心者は「吸収」動作を単なる衝撃の吸収と誤解してしまいがちです。彼らは、コブの底に落ちたときの衝撃を吸収しようと考えてしまうのです。

一般的な「吸収」動作の意識としては、コブの凹みで足を伸ばし、凸で縮めることで重心の高さを変えずに凹みを埋めるというものがあります。しかし、本当の目的は、コブの底へ落ちて迎え角を大きくするために、コブの凸でなるべく飛ばないようにすることなのです。

この動作を行っていても、滑走スピードが高くなるほど、コブを埋めるような動作に近くなってきます。そのため、吸収動作の真の目的が隠れてしまっている可能性があります。

さらに、横方向のターンについても再考の余地があります。ターンによる除雪で減速するというよりは、サイドバイサイドの動きにより迎え角を作り、減速要素を得る効果の方が大きいのではないでしょうか。

以上のように、モーグルの滑走では、吸収伸展動作やサイドバイサイドの動きを通じて、いかに迎え角を大きくし、減速要素を生み出すかが重要なのです。これらの動作の真の目的を理解し、意識的に実践することが、モーグルのスピードコントロールの鍵となります。初心者は、衝撃吸収という表面的な理解にとらわれず、迎え角を大きくするという本質的な目的を見失わないようにすべきでしょう。

6)コブ斜面の難しさの本質

コブ斜面での滑走について、「減速要素を大きくする」という考え方に違和感を覚える人もいるかもしれません。一般的に整地では、減速要素を少なくすることが望ましいと考えられているからです。また、コブ斜面はフラット斜面をスキーヤーが滑ることで掘れてできたものなので、フラットでの滑り方に縦の動きを加えれば滑れるだろうと思われがちです。

しかし、コブ斜面には原理的に難しい理由があります。それは、コブ斜面では速度が上がるほど減速しにくくなるという、整地とは逆の現象が起こるということです。

整地の場合、ターンの失敗、つまりズレが生じると減速してしまいます。そのため、速度が上がるほどターン時に速度を下げないようにすることが難しくなります。

一方、コブ斜面では、コブの形状的特性により、速度が上がるほど減速が難しくなっていきます。速度が上がると、重心の移動放物線が斜度に近くなり、縦の迎え角が浅くなってしまうのです。その結果、縦の減速要素を作ることが困難になります(図:速度が上がって縦の迎え角が浅くなる)。さらに、速度が上がるほど減速に使える距離と時間が少なくなってしまいます。

つまり、コブ斜面の難しさの本質は、自分の限界速度を超えないようにスピードコントロールする必要があることにあります。コブ斜面では、速度が上がるほど減速が難しくなるという特性があるため、スキーヤーは常に適切な速度を維持しなければならないのです。

この点を理解することが、コブ斜面での滑走技術を向上させる上で重要です。単にフラットでの滑り方に縦の動きを加えるだけでは不十分であり、コブ斜面特有の減速の難しさを考慮した滑り方が求められます。限界速度を超えないようにスピードコントロールすることが、コブ斜面を攻略する鍵となるのです。

7)モーグルにおける減速技術の重要性

モーグルの滑走技術において、最も重要な要素は、高速域でいかに効果的に減速するかということです。これこそがモーグルの滑走技術の本質だと考えられます。

コブを高速で滑走する際、横方向のターンでは構造的に減速を得ることが難しくなります。コブの形状や斜面の特性により、横のターンでは十分な減速効果を得られないのです。そのため高速域では縦方向のターンを活用した減速が重要になってきます。

縦のスピードコントロールを行うためには、縦の迎え角を意識的に作り出す必要があります。つまり、スキーヤーは自らの体の動きや重心移動を通じて、スキー板と斜面の角度(迎え角)を調整し、効果的な減速を生み出さなければならないのです。

このように、モーグルの滑走技術の究極の目的は、高速域における減速能力の向上にあると言えます。横のターンによる減速が難しい状況下で、いかに縦のターンを活用し、縦の迎え角を作り出すかが、モーグルの滑走技術の鍵となるのです。

高速域での縦のスピードコントロールを習得することで、モーグルの滑走技術を真に極めることができるでしょう。減速技術は、モーグルにおける最も重要な要素であると言えます。


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